吉田 恒氏 この3-4か月で大きく円安が進みました。そこで皆さんの中には、あまりに早すぎ、あっという間のドル高・円安の進行によって、「果たしてさらなるドル上昇余地はどのぐらい残っているのか」、「この先100円、110円ぐらいまで上がる可能性はあるのか」、「ひょっとして外貨を買うタイミングを逸してしまったということはないか」といった疑問を抱いている人もいるのかもしれません。

 そこで今回は、足元94円程度の水準が、この先数年スパンの中期的観点において、また5年10年といった長期的観点において、どんな意味があるかについて考えてみたいと思います。


◆40年続いた円高を支えた構造が変わり始めた


 <資料1>をご覧下さい。これは、1980年代後半以降の4回のドル高・円安基調におけるピークを、ドル/円のチャートにマークしたものです。赤い折れ線グラフは、ドル/円の適正水準を計算する方法の一つである日米卸売物価基準の購買力平価ですが、4回のドル高・円安のピークは、いずれも購買力平価前後に位置していたことがわかるでしょう。

※<資料1>はコチラ⇒http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=400548
<資料1>

 以上からわかることは、ドル高・円安とは、日米卸売物価基準の購買力平価までドル/円が戻る動きというのが基本だということです。さらに細かく見ると、最近のドル高・円安ほど、その購買力平価をドルが上回る動きが顕著になっており、前回、2007年のドル高・円安のピークでは、購買力平価を10%以上もドルが上回っていました。

 さて、その購買力平価は足元95円程度です。それをドルが10%以上も上回るとするなら、110-120円程度まで今回の局面の中でもドル高・円安になる可能性が高いといった計算になるわけです。

「今回の局面」と断ったのは、円安も無限に続くものではなく、循環するものだからです。少なくとも、1980年代後半以降のドル高・円安の持続期間を調べたところでは、4年以上、円安基調が続いたことはありませんでした。

 今回のドル高・円安のスタートは、2011年11月75円台からです。その意味では、仮に1980年代後半以降の円安持続期間の最長記録を更新し、4年以上のドル高・円安になるとしても、突然、一気に5年以上も続くといった具合に循環記録が大きく変わることはさすがに考えにくいでしょうから、遅くとも2015-2016年までに円安基調は一巡すると考えるのが常識的なところでしょう。

 過去の実績を調べて見ると、円安と円高のサイクルは、2-3年程度で循環するというものです。中でもドル安・円高の場合は、最低でも1年以上は続き、ドルは2割以上は下落するパターンとなっていました<資料2>参照。

※<資料2>はコチラ⇒http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=400549
<資料2>

 そうであれば、仮に2015-2016年でドル高・円安基調が一巡するなら、その後は少なくとも1-2年はドル安・円高となり、かりに120円程度からのドル安・円高になるとしても100円を割れる程度のドル安・円高が起こるといった見通しになるでしょう。

 ただここで私が注目しているのは、このような円高と円安のサイクルが、これまでは1971年のニクソンショック以降は40年以上、長期円高基調の中で起こってきたものでしたが、それを支えた構造が変わり始めている可能性です。

 例えば、<資料3>は、ドル/円相場と日米金利(政策金利)差の関係を見たものです。これまでは、ドル高・円安へ基調が転換する前に、日米金利差ドル優位の大幅な拡大が起こっていたことがわかるでしょう。これはこんな含意があったのではないでしょうか。

※<資料3>はコチラ⇒http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=400550
<資料3>

 日本は経常黒字、貿易黒字大国だったため、それに伴う円高圧力を相殺して円安に基調が転換するためには大幅な資本流出の拡大が必要で、そのためには内外金利差の大幅な拡大が必要だったということでしょう。

 ところが、<資料3>からわかるように、今回は、金利差の大幅な拡大がない中で、円安へ転換するといった異例の事態が起こっている可能性があるわけです。これは、すでに日本が「黒字大国」ではなくなり始めた結果として、大幅な内外金利差拡大に伴う大幅な資本流出拡大がない中でも円高から円安へ基調転換が起こるといった具合に、円を取り巻く構造が変化した可能性を示しているのではないでしょうか。

 過去40年以上続いてきた長期円高基調を支えた構造の柱が「黒字大国ニッポン」だったでしょう。それが変わり始めたということは、長期の基調も円高から円安へ変わり始めている可能性があるということになるでしょう。そうであれば、今経験している円安は、まさに長期円安時代の始まりの可能性があるのではないでしょうか。(了)


【吉田 恒氏】
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社。同社の代表取締役社長などを経て、2011年7月から、米国を本拠とするグローバル投資のリサーチャーズ・チーム、「マーケットエディターズ」の日本代表に就任。国際金融アナリストとして、執筆・講演などを精力的に行っている。また「M2JFXアカデミア」の学長も務めている。
2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊など大相場予測をことごとく的中させ話題に。「わかりやすい、役立つ」として、高い顧客支持を有する。
著書に『FX7つの成功法則』(ダイヤモンド社)など

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