吉田 恒氏 2013年は、ドル高・円安でのスタートとなりました。昨年11月からの安倍自民党総裁による金融緩和強化発言に反応した「安倍円安」が続いた形になっています。この背景には、前回のコラム(http://nikkan-spa.jp/361227)で書いたように、円の過大評価の修正という「暗黙の了解」があったと思うのですが、ただそれはさすがに90円程度までかもしれません。


◆円の過大評価修正は90円がメドか


 IMFは昨年まとめた日本についての年次報告書のなかで、「円は過大評価」との認識を示していました。結論的にいうと、このIMF見解を参考にすれば、85-90円程度までのドル高・円安は、「円の過大評価」修正として許容されているのかもしれません。

 IMFの見解で注目されたのは、特に以下の2つの言及。一つは、昨年6月12日に公表された年次報告書の中の見解、そしてもう一つは昨年8月1日に公表された年次報告書の中の「補完資料」の中の見解です。

 前者において特に注目されたのは、「過去一年間の円切り上がりは中期的観点から過大評価」との部分(下記参照※1)。そして後者においては、円の実質実効相場は10-15%割高といった見解になっていました(下記参照※2)。

 今年6月時点での、「過去一年」という表現は、2011年4月、大震災後の協調介入で85円を記録したところからのドル安・円高の動きと考えるのが基本でしょう。また、円の名目実効相場は、今年のピークからの下落率は足元が10%程度に達しています。

 以上のことを参考にすると、震災後のドル高値、85円程度までは、「円の過大評価」修正として許容されているのでしょう。また、実効相場の下落率からすると、もう少し、割高修正の実効相場での円下落は許容されるのかもしれません。それをドル/円に当てはめたら90円程度は、「円の過大評価」修正として許容されるのかもしれません。

 これは、安倍新総理や石破幹事長といった自民党首脳陣からの85-90円といったドル高・円安に関する具体的水準発言とも符合するものです。通貨安政策は、諸外国の批判を招きかねないものですが、それを比較的気軽な感じで言及しているのは、これまで見てきたような、IMFなどによる「円の過大評価」修正の範囲内は円安黙認という「暗黙の合意」があると考えれば辻褄は合うところです。

 別な見方をすると、「円の過大評価」修正を超えたドル高・円安が国際的に容認されるかは、米金利上昇に伴うドル高の結果としての円安といったような、「安倍円安」とは違った理屈が必要になるでしょう。それは、90円程度が一つの転換点になる可能性があるのではないでしょうか。(了)

※1
「円の為替レートは安全資産への逃避による資金流入などを反映し過去1 年の間に切り上がり、我々の分析は、円の為替レートは中期的観点から幾分過大評価であることを示唆している」(6月12日発表、年次報告書)

※2
「総じて、実質為替レートは中期的なファンダメンタルズ対比で、0~10%ほど、やや過大評価されていると推察される。今年3 月、消費者物価を用いた実質実効相場は過去20 年ほどの平均水準に近い。しかしながら、ULC(ユニット・レイバー・コスト)を用いると、過去20 年平均よりも約10~15%も高い。この結果は、1990 年代半ばから世界の輸出市場でシェアを失ってきたことと整合的で、その間、主な競合国はシェアを維持するか、伸ばしてきた。このことは円の過大評価を示唆している」(8月1日発表、年次報告書・補完資料)


【吉田 恒氏】
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社。同社の代表取締役社長などを経て、2011年7月から、米国を本拠とするグローバル投資のリサーチャーズ・チーム、「マーケットエディターズ」の日本代表に就任。国際金融アナリストとして、執筆・講演などを精力的に行っている。また「M2JFXアカデミア」の学長も務めている。
2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊など大相場予測をことごとく的中させ話題に。「わかりやすい、役立つ」として、高い顧客支持を有する。
著書に『FX7つの成功法則』(ダイヤモンド社)など

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