吉田 恒氏 ドル/円の適正水準について、日米欧先進国間では、85-90円程度というのが暗黙のコンセンサスになっている可能性があるのではないでしょうか。そう考えると、ここまで安倍新総理を中心とした「円安誘導」発言に、目立った批判がないことも理解できるでしょう。


◆IMF見解「円は過大評価」の舞台裏


先進国間で、ドル/円の適正水準について、85-90円程度がコンセンサスになっている可能性があると考える根拠は、今年まとめられたIMFの日本に関する年次報告です。その中には、「過去1年の円高は、円の過大評価」、「実質実効相場からすると円は10-15%の割高」といった言及がありました。

 このような「IMF見解」は、今年になってから突如出てきたもの。このため、この裏には、今春、日本がIMFへの融資枠を急拡大させたことなどとの政治的取引の結果といった見方もあります。

 要するに、今年春までは、欧米でも1ドル=70円台のドル安・円高が適正か、過大評価された不適正なものかといった見解は明確になっておらず、むしろ前者との認識もあったところ、融資枠拡大で「恩」を売ることにより、後者、つまり70円台のドル/円は「不適正」ということを、権威ある国際機関「IMF見解」としたのではないでしょうか。

 もちろん、「IMF見解」と、日米、日欧といった二国間、またはG7などの見解と完全に一致しているわけではないでしょう。それにしても、適正水準が85-90円程度であるなら、それ以上のドル安・円高は、「円の過大評価」となるため、そんな水準の円相場のトークダウン、円安誘導発言に、これまで欧米から目立った反発が出なかったこととも辻褄は合います。


◆安倍「円安誘導」の許容される目処


 そもそも、この85円を超えるまでのドル高・円安は、ヘッジファンドなど投機筋の主導と見られました。米当局の意向に無知と考えにくいヘッジファンドの猛烈なドル買い・円売りは、逆に言えば、すぐに米国から円安けん制が出ないことを示していたと解釈できなくないところです。

 先進国で、ドル/円の適正水準として、85-90円程度が「暗黙のコンセンサス」になっていたとするなら、そこまでのドル買い・円売りに、政治的な障害はないとの判断から、おりしも10月末の日銀による貸出制度見直しを受けて、いわゆる円キャリー取引余力が急拡大したヘッジファンドなど投機筋が円売りを積極化したのも理解できるところです。

 ただ、それは90円まで投機主導のドル高・円安がこのまま進むということとは別。投機円売りが限界に達したら、反動としての円高はありうるところでしょう。また逆に、90円を超えるドル高・円安の可能性は、一段の米金利上昇ないし、日本の金利低下など「新たなストーリー」次第では否定されるものでもないでしょう。(了)


【吉田 恒氏】
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社。同社の代表取締役社長などを経て、2011年7月から、米国を本拠とするグローバル投資のリサーチャーズ・チーム、「マーケットエディターズ」の日本代表に就任。国際金融アナリストとして、執筆・講演などを精力的に行っている。また「M2JFXアカデミア」の学長も務めている。
2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊など大相場予測をことごとく的中させ話題に。「わかりやすい、役立つ」として、高い顧客支持を有する。
著書に『FX7つの成功法則』(ダイヤモンド社)など

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