池水 雄一氏中東の混乱、欧州のソブリンリスク、そして世界的な金融緩和の流れを受けて、金価格が高騰の一途をたどっている。昨年8月、史上最高値となる1923ドルを記録してからやや落ち着いたものの、ここにきて、またジリジリと上昇カーブを描いているのだ。イランの核開発により中東で緊張が高まるなか、「有事の金」の不文律はここでも通用するのか?金のスペシャリスト3人が、「青天井」とも言うべき金相場の極意を解き明かす。

'11年、1トロイオンス=1400ドル付近から幕を開けた金相場は、「アラブの春」による中東の緊張に対しても強基調で推移。欧州のソブリンリスクが深刻化すればするほど逃避資金が流入し、9月には史上最高値の1920ドルに達した――。

その後、1530ドル台まで売り込まれた金は、年初には1700ドル近辺で動いていたが、2月末には満を持して1780ドルを突破! 3か月半ぶりに高値を記録した。今後、金にさらなる上昇を期待していいものなのか? スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏は、金価格高騰の背景をこう説明する。

「欧州のソブリンリスクは確かに金相場を押し上げたが、もともとの上昇に拍車をかけた、いわば副次的な要因と言っていい。金が上昇する最大の理由は、現在の世界的な金融緩和にある。つまり、QE1、QE2と立て続けに大規模な量的緩和を行ったアメリカをはじめ、世界中の国がお札をバンバン刷っているのが理由です。マネーの量が増えれば、当然その価値は下がり、投資家にすればお金じゃないものに資金を移動させたいと考える。そこでコモディティに資金が流入したわけですが、なかでも金にはそのもの自体に普遍的な価値がある。有史以来、金は重んじられ、腐ったり、物質として変化することもない。こうした特質を持つのは金だけなのです」

さらに、近年、大量の金を保有し、マーケットに大きな影響力を持つ各国中央銀行の売買の動きに、かつてない変化が起きている。

「’71年にアメリカのニクソン大統領がドルと金の兌換を停止し、金本位制に終止符を打ったドルショック以降、各国の中央銀行はずっと金の売り手でした。ところが、’09年、’10年あたりから買い手に回ったのです。この20年間、世界の中央銀行は年間500トンほどを売っていたのですが、’11年にはおよそ450トンの買いに転じた。市場に与えるインパクトは1000トン規模にもなります」

’11年の世界の金産出量は史上最高を記録したが、それでも2812トン。これに〝都市鉱山〞と称されるリサイクルでの年間供給量が約1600トン。もともとマーケットが小さい金相場では、各国中央銀行の売買による影響は大きいものとなる。特に、最近目立った買い手が新興国の中央銀行だ。

「以前は金を買っていなかったメキシコ、タイなど中南米やアジアの国が買い漁り始めている。外貨準備高に占める金の割合(右下図)は、欧米では軒並み7割を超えるのに対して、新興国は1割にも満たない……。世界最大の外貨準備を持つ中国に至っては、わずか1・7%の金しか保有しておらず、その大部分を米国債で持っている。ポートフォリオのほとんどを、価値がどんどん下落している米ドルやユーロが占めるわけだから、こうしたリスクを避けるために、新興国の中央銀行はこぞって金の保有比率を高めているのです」



【池水 雄一氏】
スタンダードバンク東京支店長。三井物産での貴金属チーム・リーダーを経て現職。一貫して貴金属ディーリングに従事する。著書に『THE GOLD ゴールドのすべて』(エイチスクエア)など