8月2日、金融市場はある人物の発言を固唾を呑んで見守っていました。約1週間前、「ユーロを守るためには何でもする。私を信じてほしい」と述べた「ユーロの番人」、ECBドラギ総裁の発言でした。発言直後は「失望」とされたこの発言でしたが、私はそうでもないと思います。


◆実は予想以上に大胆な政策も



8月2日に「失望」とされた理由は、懸案となっていたECBのスペイン国債購入の開始時期、規模など具体的な内容の説明がなかったことが挙げられていましたが、ある専門家は、「事前の予想以上に大胆な対策を準備しているため、すぐには詳細な内容を示せなかった面もある」といった具合に、むしろポジティブな評価で考えていました。

「事前予想以上に大胆な対策」の象徴は、ECBのQE(量的緩和)でしょう。ECBはこれまでもスペインやイタリアなどの国債を購入したことがありましたが、それはいわゆる不胎化した上でのものであり、FRBによる国債購入、QEとは違うことを確認し、ECBとしては、FRBやBOE(イングランド銀行)のようなQEはやらないと述べてきました。

ところが、ある大手通信社の報道では、「ドラギ総裁は資産購入を不胎化しない可能性も示唆し、ECBによる量的緩和に含みを残した」と説明されていました。ECBがQEに動くとすれば、「事前予想以上に大胆な対策」、まさにポジティブ・サプライズでしょう。

ドラギ総裁は、会見の中で、「これまでのSMP(証券市場プログラム)とはまったく違うものを準備している」と述べたことは事実です。SMPとは、これまでECBがスペインやイタリアの国債を購入してきた政策のこと。それとはまったく違うECBの国債購入を準備しているということは、それをQEと呼ぶかとは別に、「予想以上に大胆な政策」とはいえるでしょう。

それでも金融市場では、ドラギ総裁が、「ユーロを守るためにできることは何でもやる」と大見得を切っていた割には、ガイドラインを示しただけにとどまり、具体的な詳細を説明できなかったのは「大いなる失望」だったとの厳しい評価が目立ちました。

確かに、この「ドラギ・ミッション」が具体的にスタートするのは、9月初めの次回ECB理事会、そして懸案となっている独憲法裁判所がいわゆるESM(欧州安定メカニズム)の合憲性判断を下す予定となっている9月12日前後、要するにまだ1か月も先になりそうです。

それまでの間に、いろんな前提条件があり、本当に予想以上に大胆な「ドラギ・ミッション」が稼動するかは微妙なのかもしれないので、欧州危機、リスクオフの流れは簡単に変わらないのかもしれません。

ただ一方で、2日ドラギ発言は、「ポジティブ・サプライズ」という面もあったと思うので、「失望」、すなわち「ネガティブ・サプライズ」の反応が一辺倒で広がるわけでもないのではないでしょうか。むしろ後から振り返ったら、やはりユーロ危機幕引きの始まりだった重要発言だったというふうになる可能性も十分あるのではないでしょうか。 (了)

吉田 恒
【吉田 恒氏】
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社。同社の代表取締役社長などを経て、2011年7月から、米国を本拠とするグローバル投資のリサーチャーズ・チーム、「マーケットエディターズ」の日本代表に就任。国際金融アナリストとして、執筆・講演などを精力的に行っている。また「M2JFXアカデミア」の学長も務めている。

2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊など大相場予測をことごとく的中させ話題に。「わかりやすい、役立つ」として、高い顧客支持を有する。

著書に『FX7つの成功法則』(ダイヤモンド社)など

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