「差別の上に成り立っている」以上、原発は認めることができない




最下層の立場が理想的な職場だった


──原子力の世界を飛び出そうとは思いませんでしたか?

【小出】 周りにはそういう人もいました。実際、同期で鳶職になった人もいます。私は原子力の世界の中で、その危険性を追及することに意義があると思ったんです。

──そして、京都大学原子炉実験所に就職しましたね。

【小出】実は東北大学の修士を出た後に、電力中央研究所に入ることになっていました。内定をもらって、研究所には私の席も用意されていました。ところが、私が女川原発に反対していることがバレて、内定取り消しになったんです。

仕方がないので、博士課程まで行こうかとも思いました。しかし、東北大学は私をどこかに追い出したい。そんなある日、大学の掲示板で京都大学原子炉実験所の採用情報を見つけたんです。で、試験を受けたら採用してくれました。

──京都大学は原発に反対していると分かって採用したのですか?

【小出】 京都大学には個々の自主性を重んじる校風があります。私がどういう信条を持っているかなどという事前調査はしなかったのだと思います。わかったのは私が採用された後でしょう。

──それ以来、ずっと助教(助手)ですか? 教授になって、地位や名誉、お金を手に入れたいと思ったことはないのですか?

【小出】 全く思いません。37年間ずっと最下層の教員でしたが、私にとっては理想的な仕事場です。誰からも命令されたことも、命令したこともありません。ずっと自分の好きな研究を続けていられます。本当に幸せだと思います。生活は普通にできていますし、今よりもっとお金がほしい、もっと贅沢な暮らしをしたいと思ったこともありません。研究や講演の合間に行く山登りと温泉が、私にとっての最高の贅沢です。

──研究を手伝う学生やアシスタントもいないのですか?

【小出】 いません。助教は講座を持てませんし。第一、私に教えられた学生は就職できませんよ(笑)。

──そうした立場だと、お金の問題が出てきませんか? 政府や企業が望むような研究をすれば、研究費もたくさんもらえるのでは?

【小出】 もちろんそうでしょうね。私は一度ももらったことがないので、どのくらいもらえるのかは知りませんけれども。確かに私の研究費は少ないですが、実験所には必要な機材がすべてそろっているので、全く不自由はありません。

──大学の研究分野でも原子力は学生に人気がなくなっているようです。政府や電力産業は大金をつぎ込んで原子力の専門家を育成しようとしているようですが?

【小出】 いくらお金をもらえても、その分野に夢を持てる学生が増えなければ続きません。優秀な学生ほど原子力に未来はないとわかっているのかもしれませんね。

──しかし仮に原発をやめることになったとしても、安全にやめるための専門家が必要では?

【小出】 そうです。今でさえ廃炉には数十年、使用済み核燃料の問題も何百年と、残っているのですから。それなのに、これらの問題にあたる専門家が育っていないのです。これまで原子力の世界が「推進するための専門家」ばかりを育ててきたツケがきています。

──無力感に襲われて、反原発の立場を貫くのはもうやめようと思ったことはないのですか?

【小出】 私が原発を止めたいと思った時、日本には原発は3基しかありませんでした。それが、この40年で54基にまで増えている。敗北に次ぐ敗北ですよ。それでも、やめようと思ったことは一度たりともありません。人生なんて、1回しか生きられないじゃないですか。だったら、やりたいことをやるしかないと思っています。




小出裕章

'49年東京生まれ。京都大学原子炉実験所助教。原子力を学ぶことでその危険性に気づき、伊方原発裁判、人形峠のウラン残土問題、JCO臨界事故などで、放射線被害を受ける住民の側に立って活動。原子力の専門家としての立場から、その危険性を訴え続けている。著書に『放射能汚染の現実を超えて』(河出書房新社)など

原発の危険性をわかりやすく語った小出氏の最新刊『原発のウソ』。
神保哲生氏、宮台真司氏をホストに「マスコミが報じない震災・原発事故の事実」を伝える新刊『地震と原発 今からの危機』にも小出氏が登場。(ともに小社刊)
■『地震と原発 今からの危機』amazonにて好評発売中
■『原発のウソ』amazonにて好評発売中