大暴落の予兆?それとも大復活!?

今年の春はヘッジファンドから目を離すな!



昨年、株価がバブル崩壊後最安値を更新、26年ぶりの安値水準まで急落したのは、ヘッジファンドの激烈な売りが引き起こしたという。一見、その動きは一巡したかに思われるが、小休止という見方も。今、ヘッジファンドの間で何が起きているのか?


いまだかつてない運用不振で投資家からの解約が殺到!



相場をかく乱する悪玉というイメージが強いものの、実のところ、ヘッジファンドの実態はよく知られていない。特定の投資家しか利用できない私募形式で、情報開示の義務もないからだ。その総数や運用資産残高などに関しても、正確なデータは存在しない。ヘッジファンドに詳しいGCIキャピタルの山内英貴氏はこう語る。

「ヘッジファンドの存在が認知されるようになったのは、'90年代初めにジョージ・ソロスがポンドを売り崩した頃から。データベースにはそれ以前の記録が残っておらず、監督当局でさえ実態を正確には把握していません。いくつかの調査会社がありますが、いずれもすべてのファンドを網羅できているわけではありません」

こうしてベールに包まれているヘッジファンドに、大きな異変が起きている。調査会社の一つ、ユーリカヘッジによると、ヘッジファンド全体の運用資産残高は'08年夏頃の時点で2兆ドル近くに達していたが、年末には1.5兆ドルまで激減したという。


「リーマンショックを機にデレバレッジ(レバレッジ取引の解消)を余儀なくされたことに加え、投資家から解約が殺到したため、おそらく実際のところは1兆ドル近くまで減っているでしょう」

通常の投信の場合は、TOPIXなどのベンチマークを上回ることを基準としているため、TOPIX自体がマイナスだと、投信もマイナスとなってしまうケースが多々ある。しかし、どんな相場でも常に収益を目指す“絶対リターン"がヘッジファンドのモットーだが、リーマンショックには太刀打ちできなかったようだ。

「過去にもヘッジファンドは数々の危機を経験してきました。大手ヘッジファンドが破綻した'98年のロシア危機やITバブル崩壊、エンロンやワールドコムの不正会計を受けて株式市場が低迷。これらのピンチに遭遇しても、年間を通じた運用実績はプラスを死守してきましたが、'08年はヘッジファンド全体で約20%のマイナスとなっています」

マクロ経済動向をベースに世界のあらゆる市場で運用するグローバルマクロや、商品先物中心のマネージドフューチャーズなど、一部の投資戦略に特化したファンドはプラスを確保している。しかし、それらも安泰ではない。

「投資家の解約請求だけでなく、これまでメインのスポンサーだった投資銀行が資金提供を渋っていることも打撃です。こうしたことから、否応なくポジションを縮小せざるをえないのです」



山内英貴氏
GCIキャピタル代表取締役社長。東京大学経済学部卒業後、
日本興業銀行でトレーディーング、デリバティブ関連業務等を経て現職


換金売りはすでにピークアウト? それとも4〜6月に再び活発化!?



かなり過激なイメージがあるヘッジファンドだが、レバレッジはせいぜい2〜4倍。ところが、そのスポンサーだった投資銀行は20〜40倍ものレバレッジでサブプライム絡みの証券化商品を運用。これが焦げ付いてヘッジファンドまで運用難に陥ったのだから、本当に皮肉なことだ。


「そもそもヘッジファンドは市場の歪み(適正価格とのかい離)に注目して投資します。このため、歪みを緩和させる緩衝材的な役割を果たす」(山内氏)という。しかし、「デレバレッジが急激に進んだことで市場の歪みが生じ、ヘッジファンドの投資機会が拡大しているのも確か」と指摘。その典型例が、'16年満期物価連動国債のブレイクイーブンレートの推移から窺えるという。上の図を簡単に言うと、「市場は、物価がどれくらいで推移すると予想しているか」ということ。

「現在、'16年満期物価連動国債のブレイクイーブンレートはマイナス3〜4%。つまり、'16年までの今後7年間、物価が毎年3〜4%下がり、デフレが続くとマーケットが織り込んだ状態です」

しかし、今後何年も物価がマイナス3〜4%で下がり続けるとは考えにくい。なぜ、マーケットはそんな状態になっているのか?

「これはリーマンが大量処分したことと、それにより主要な買い手だったヘッジファンドが毀損し、買い手不在となったのが原因。つまり需給バランスが崩れ、歪みが生じていると考えられるのです」

本来なら、こうした歪みに着目してヘッジファンドがトレードを仕掛け、自然と訂正されていくのだが、今はヘッジファンド自身に余力がない。そのため、歪みが放置された状態が続いている。

「ヘッジファンドへ資金を託す投資家のうち、半数近くを占めるのが、複数のヘッジファンドに投資する『ファンドオブファンズ』です。ここから大量の解約が出たのですが、すでにこうした動きは一巡したムードが強い。今後の換金売りは限定的でしょう」

一方で、某ヘッジファンド関係者はこんな証言をする。

「無条件に解約を受け入れると相場がとことん値が崩れ、売るに売れなくなり、一時的に解約を凍結しているヘッジファンドも多い。通常、その期限は6か月程度。昨年の10〜12月に凍結し始めたので、4〜6月頃に換金売りが再び続出する可能性があります」

しばらくヘッジファンドの動向から目を離させない。




ファンド清算、リストラでヘッジ
ファンドを去った人のその後は?


昨年、45%のプラスを出したファンドマネジャーでも、「ヘッジファンドだから」という理由だけで、資金流出はひどかったという。昨年は、投資家からの解約は止まらず清算が相次いだヘッジファンドだが、リストラ後の道はというと、まさに多種多様。証券会社に転職しコンプライアンスなどのマーケットと関係のない部署で働く人もいれば、デイトレーダーになったものの、ヘッジファンドの手法とデイトレの手法が噛み合わないのか、苦戦中の元運用者もいる。

日本株投資を中心とするS社で勤務していた社員は、「月々の手取りは約100万円。これまでボーナスも800万円はありましたが、昨冬は業績連動でカットに。絶対収益を追求するこの仕事に疲れました」と、昨年末に早期退職に応募。その後、得意の語学を生かして起業した金融コンサルティングが軌道に乗っているという。

プライベートエクイティを中心とするA社で勤務していたファンドマネジャーは、「運用不振と解約請求で、ファンドの残高は激減し、11月に解雇されました。相場の長期的な低迷は明らかで、これまでのような高い報酬は期待できない。そこで、相場が改善されるまで、海外留学してMBAを取ろうと決めたんです。こんなご時世だからこそ、スキルアップですよ! MBA留学には2000万円くらい必要なんですが、預金は1300万円ほど。しばらく日本を離れるので、この際、都内のマンションも売るつもりです」と、慌てて働かなくもいい元金融マンたちの新しい“就職先"には、MBAが人気のもよう。ちなみに、売り出し中のマンションは都内の高級住宅街にあり、1億円近くで買ったものだという。

ほかにも、「不動産の家賃収入があるから大丈夫。マーケットの様子を見ながら、しばらくのんびり過ごすつもりです」(英系ヘッジファンドの元運用者)と悠々自適な生活を送る人も。

明暗は分かれるものの、マーケットの低迷ぶりほど落ち込んでない人が多いようだ。


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